夢ねこ★不思議缶

夢ねこ★ 空想・妄想の缶詰は。。。いかが?

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【こころね】


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【こころね】


澄んだ空気が 頬を撫でていく。

空はぬけるように青くて。。

秋晴れの気持ちのいい日だというのに 

ボクの気分も体調も 最悪だ。

仕事の忙しさにかまけて 今まで自分の体のことなど後回しにしてきたツケが回ってきたようだ。

とりあえず薬でも処方してもらおうと 昨日クリニックに予約の電話を入れた。


予約の時間まで まだかなり時間があるので

クリニックの周りを散歩することにした。

クリニックの裏手には 小さな森へ続く小路があって 見事な銀杏の樹がそびえていた。

その樹を見上げながら。。

遠い昔の 懐かしいひとつの風景を想い出していた。

『親父は。。銀杏が大好物だったなぁ~。』

思わずぽつりとつぶやいて 銀杏の樹に寄りかかり ボクは青空を見上げた。

もうずいぶん長いこと 空なんてしみじみ見上げたことがないような気がする。

青空って こんなに青かったっけ?
 
絵の具で言ったら Deep Sky Blue とでもいうんだろうか?

青い絵の具をたっぷり浸した刷毛で さぁーーっと塗ったような 見事な青だ。


こっつーーーん!!

『いてっ!?』

突然 頭に何かが落ちてきたと思ったら。。。

銀杏の実ひとつ。

それを追いかけて 樹の上からリスがやってきた。

『ほらっ♪落とすんじゃないぞ。』

リスに向かって銀杏の実を投げながら。。これからクリニックで何を言われるのかと

ボクの心は不安の渦の中に沈んでいった。


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『さて。。どうされました?』

白髪まじりのふさふさの髪に 特徴的な黒目が 眼鏡の奥で優しく微笑んでいる小柄なドクターが

大きな机越しにボクに尋ねた。


『えっと。。何というか。。

眠れない あまり食べれない日が続いて。。どうにも参っているんです。

疲れやすくて仕事にも集中できませんし

急に心臓がバクバクしたり。。。頭痛がしたり 眩暈がしたり。

全身が強張って 体が思うように動かないような 変な気分なんです。』


『ふぅ~む。。どれどれ。。。

とりあえず ちょっと診てみましょうか?』


聴診器を ボクの胸にあてて

しばらくしてドクターは おもむろに言った。


『う~む。。かなり 弱っていますね。

ずいぶん無理されているようですねぇ。

お仕事はもちろんでしょうが。。いろいろストレスを抱えていませんか?』


『えっ?

そんなに悪いんですか?』

僕はドキドキしながら 尋ねた。


『そうですねぇ~。。

このまま 今と同じ状態を続けると かなり危ない。

。。長くはありませんね!!』


『そっ・・そんなーーーー!?』

ドクターの言葉が信じられなくて ボクは耳を疑った。

ボクは まだこんなに若いんだぞ。

やりたいことが まだまだ山ほどあるのに そんなの酷過ぎる。

ここまでくるのに。。

今まで いろんなことを我慢してきた。

本当にやりたいことも やらず。

本当に言いたいことも 言わず。

ただ 目標に向かって

ただただ  真っ直ぐに。

親の期待に応えよう。

先生に褒められよう。

上司に認められよう。。出世しよう。。と。

そのお陰で

ボクは 【人生の勝ち組】になったんだっていう自負がある。



ボクは思わずどもりながら 藁にもすがる気持ちでドクターに尋ねた。

『せっ・・せっ・・先生!!何とか治す方法はないんですか?』


『ありますよ。

治療は いたって簡単です。

ただ あなたにその気があるかどうかの問題ですけどね。』

ドクターは そっけなく言った。


『へっ?』

さっきは 死に至るくらいの 酷い病気だって言ったのに。。

そんなに簡単な治療法があるのなら

さっさと 教えてくれーー!!


『じゃぁ。。これを。』

そう言って ドクターが差し出したものは

さっき ボクの胸に当てていた聴診器だった。


『えっ?これを。。どうする。。ん。。?』

狐につままれたような気持ちで ボクが不思議そうな顔をすると。。

おもむろにドクターは

ボクの胸に聴診器をあてると

聴診器のイヤーピースの部分を ボクの耳にあてた。


どくん どくん どくん

どくん どくん どくん


ボクの心臓の音がする。

規則的で 力強い音だ。


どくん どくん どくん

どくん どくん どくん


別に 【弱って今にも消えそうだ】なんて感じじゃないぞ。

こいつ。。もしかしてヤブ医者じゃないのか?


どくん どくん どくん

たすけて


どくん どくん どくん

たすけて


どくん どくん どくん

もう たくさん!! もう いやだーー!!

どくん どくん どくん

きえちゃいたいよ このまま どこかに



な・・なんなんだーー!? この声は!?


ボクはびっくりして 聴診器を耳から外して ドクターの方を見た。

ドクターは まるで憐れむような眼差しでボクを見ている。


『聴こえましたか?』

『えっ?。。ええ。

いったいなんなんですか あの声は?

まるで体の奥の奥の方から搾り出すような。。なんとも悲壮感に満ちた声ですね。』


『判らないのですか?

あれは あなたの声ですよ。』


『えっ?まさか。

ボクはあんな声を出さないし。。

だいいち聴診器をあててるときは ひと言も喋りませんでしたよ。』


ふっ。。。と ドクターは苦笑いを浮かべていった。

『あれは あなたの心の声ですよ。

。。。何と言っていましたか?』


『心の声?まさか。。ご冗談を!!

そんなものが聴こえるはずがない。』


ボクは ドクターの言葉を笑い飛ばそうとした。

だけど。。顔が強張っていくのが自分でもわかって 思わず診察室の白い天井を見上げた。


まさか?

まさか?

でも。。。

ボクはあの声を 何処かで聴いたことはなかったか?

聴いていながら 聴こえないふりをしていなかったか?

思わずボクは自問自答した。


もういやだ

たすけて

たすけて・・・



すると

ふいに 何処からかそれはやってきた。

大きな 大きな感情の波が

あっという間に ボクの胸の中に津波のように押し寄せて 渦を巻き

ボクを覆いつくした。

涙が止めどなくあふれてきた。


『聴こえましたか?』

ドクターが 静かな微笑みを浮かべて言った。

ボクは返事をする代わりに こっくりとうなずいた。


『おめでとう。

あなたは もう大丈夫。

あなたの 本当の【心音(こころね)】を

聴くことができた。

それを聴き 自分の中で理解できた人だけが

この病気から解放されるのです。

あなたの心に映るあなたの周りの風景は ちょうどこの水辺の風景のようなものです。

そう言ってドクターは 壁にかかった一枚の風景写真を指差した。

水面(みなも)に写るその風景は まるで鏡のように実際の姿を水に投影させていながら。。

全く異なるものです。

風が吹くと 揺らぎ
 
雨が降ると さざ波が立ち

夜の闇の中では 姿が見えなくなり

その姿を留めていることはできません。

しかしながら 実際の水辺の風景は。。。

在るがままに 自分の映る姿など気にせずに

ただそこに在り 変わらぬままです。

ともすると人は。。

実際の風景よりも 水面に映った風景を

本当の風景だと思い込んでしまっているのですよ。

真逆に映る風景と 実際の風景との区別がつかなくなってしまう。


あなたのような病を持った患者さんに この聴診器をお渡しして聴かせてみて

もう何の【心音(こころね)】も聴こえなくなっている人には

残念ながら。。。殆ど救いは無いんです。


心の本当の音を奏でる。。【本音(ほんね】という楽器は

あなたの心の奥底で 窮屈な部屋に押し込められて眠っています。

その部屋の鍵を持っているのは

私たち医者ではありません。

鍵を開けて 【本音】を出して奏でてあげるのは

あなただけなんですよ。

あなたがあなたの心に響く 本当の音を奏でられた時

あなたはあなたを本当に楽しむことができる 【楽器】になれるんですよ。』


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そうか。

そうだったのか!?

あれが。。ボクの本当の声なのか。

本当の音なのか。

不思議に 顔が笑顔になるのがわかった。

『もういちど聴診器を お借りしてもいいですか?』

涙に濡れた酷い顔で ドクターに笑いかけながら

ボクは尋ねた。


ちょっと前のボクだったら

年甲斐も無く 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった

自分の顔を他人に見せるなんて 恥ずかしくてできなかっただろう。
 
ティッシュで拭いながら

僕はもう一度 聴診器を胸に当てた。

 
どくん どくん どくん

いいんだ いいんだ

どくん どくん どくん

がんばらなくていい


どくん どくん どくん

むりしなくていい そのままでいい

どくん どくん どくん

えがおがあれば それでいい


どくん どくん どくん

すべては ここに ここに ある


どくん どくん どくん

ありがとう ありがとう



ティッシュで拭っても 拭っても

涙と鼻水は

後から後から出てきて

自分のティッシュだけでは足りなくて

とうとう ドクターのティッシュ箱も空になった。

ボクの手前のテーブルに ティッシュの山ができた。

ドクターはそれを見て 笑いながら言った。


『ずいぶん 泣くことを忘れていたでしょう?

これからは 我慢しないで

泣きたい時には 泣いて下さいね。

泣くと。。

不思議に すっきり汚れが落ちた気分になるでしょう?

涙はね。。心の洗濯になるんですよ。

ま。。その時にはティッシュ箱を抱えることをお忘れなく。』


ボク達は顔を見合わせて 笑い声を上げた。



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ドクターに別れを告げて ボクは先ほどの病院の裏手にある銀杏の樹の下にやって来た。

金色に色づいた鈴生りの銀杏が さっきよりもキラキラ輝いて見える。

あれほど辛かった体の強張りも憂鬱な気分も いつのまにか消え失せていた。

見上げる青空の青さが こんなにもボクを幸せな気持ちにするなんて。。

今まで思ったこともなかった。


こっつーーーん!!

『いてっ!?』

突然 頭に何かが落ちてきたと思ったら。。。

銀杏の実ひとつ。

それを追いかけて 樹の上からリスがやってきた。

『ほらっ♪落とすんじゃないぞ。』

リスに向かって銀杏の実を投げながら。。。
 

『んっ?』

先ほどのリスが目の前にいる。


あれ?

あれれ。。れ???

さっきと まるっきり同じじゃないか。

何気なく ボクは腕時計を見た。

『あれ?時間が。。。そんなはずはない!!』

慌てて携帯で もう一度時間を確かめる。

『合っている。クリニックの診察時間までまだ30分以上もある。』

頭が混乱して。。

ボクはクリニックの受付に電話を入れた。


『すみません。予約した●●ですが。。』


『はい。どうかされましたか?』


『あのぉ~。。ボクの診察なんですけど。。』


『ちょっと込み合っておりますので。。ご予約の時間よりも しばらくお待ちいただくことになるかもしれません。』


『いえ。あのぉ~。。ボクまだ診察を受けてないですよね?』


『はあぁ~?』


『いえっ!!何でもありません!!』


ボクは 汗びっしょりになった。

あれは。。あのドクターは。。いったい何だったんだ!?

ふと視線を銀杏の樹に戻すと。。

先ほどのリスが こっちを窺っている。


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けっけっけっ♪

けっけっけっ♪


ふさふさの灰色まじりの 大きな尻尾。

特徴のある 黒いつぶらな瞳。

小柄ですばしっこい体。

何処かで逢ったような記憶が。。。


『白昼夢。。?嘘だろ。。』


けっけっけっ♪

けっけっけっ♪


リスが まるで笑うような声をあげて鳴くのを聴きながら

ボクは携帯を持ちなおした。


『えっと。。もしもし。。

すみません●●ですが。。

ボクの予約 キャンセルしていただけますか?』



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りんりん りーーん

かすかに なるよ

こころの こころの おくふかくから


きこえる?

きこえた?

ボクの 心が

ならす音


きこえる?

きこえた?

キミの 心が

ならす音


かすかに ひびく

こころの声

こころの音色

りんりん りーーん



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