夢ねこ★不思議缶

夢ねこ★ 空想・妄想の缶詰は。。。いかが?

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【夢の国から】



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【夢の国から】


雪が またひとしきり強く降りはじめた。

彼女は 店の入り口のドアをちょこっと開けて  空を見上げた。

開けたドアの隙間から 肌を突き刺すような風が雪を伴って店の中に吹き込んできた。

『おぉ寒い!!こりゃぁ。。今日はもう店じまいしたほうが良さそうだゎ。。』

そう言いながら ふっとため息をついて 自分の小さな店の中に目をやった。

『時代遅れなのかしらねぇ〜。。。昔はこんな雪の降る日でも お客さんは引きも切らさず来てくださったのに。。』


亡くなった両親から この小さな店を譲り受け

彼女なりにいろいろ工夫を凝らしてやってきてつもりだが。。。

時の移り変わりとともに  客の嗜好もどんどん変わっていった。

今の彼女には もうあれこれ工夫を凝らして店を立て直そうなどという元気も無くなり ただひっそりと たまに訪れる客を待つ 開店休業みたいな状態が続いていた。

『そろそろこの店も 閉めようか。。ね? 

そうしてこんな雪ばかり降る冬の長い街から 太陽さんがいつも顔を出している海辺の街にでも引っ越そうかしら?』

独り言を呟きながら ガタピシと鳴る建て付けの悪い店のドアを閉めようとした時に。。。

『すみません!!もう閉店ですか?』

その声にびっくりして声のした方向を見ると

頭から肩から。。全身真っ白な雪だらけになった男の子が店の前に立っていた。

『びっくりしたぁーーー!!雪だるまが喋ったのかと思ったゎ〜!!』

『お店の場所がわからなくて。。。あちこち探して。。迷っているうちにこんなになっちゃったんです』

男の子は体についた雪をパタパタふりはらい ぶるぶるっと体を震わせた。

ドサッ!!

店の入り口に 小さな雪の塊がこんもりとできた。

『さぁさぁ。。どーぞどーぞ♪ もう少しで閉めるところだったから。。。うちを見つけられて良かったゎ~』

男の子は店の中に一歩入ると ぐるりと店の中を見渡した。

『さて。。ところで何をお求めですか お客様?』

彼女が尋ねるのを待っていたかのように 男の子は口を開いた。

『この店には。。不思議な缶詰があると噂に聞きました。いったいどんな缶詰なんでしょうか?』

彼女はにっこり笑って 男の子の顔を見つめた。

『うちはね。。。【夢の缶詰】を売ってるの。

ほら。。この棚にある虹色の缶詰。

でもこの缶詰を食べて見る夢は人それぞれ。。。本当に千差万別でね。。。

お客さんの思い通りの夢が見れるとは限らないのよ』

『。。。そんな。。』

『だけどね。。【夢の缶詰】で夢を見るのは  ほんの一瞬だけど。。

それで心に光が灯る人もいるの。

それで何処かの誰かさんが 少しでも元気になれたら この商売やってきた甲斐があるというものよ〜♪』

視線を床に向けてしばらく考え込んでいた男の子は やがて顔を上げて 彼女の顔を覗き込んで言った。

『いただきます!!この棚にある奴。。。これで買える分全部ください』

そう言って男の子は 小銭のたくさん詰まった布袋を 肩にかけていた大きなキャンバス製のバッグから取り出した。

『あら〜♪ 素敵なバッグね?キャリーバッグかしら?』

『はい。ボクが小さい頃は このバッグに入れられてよく散歩に出かけたんです』

『もしかしたら。。このバッグの持ち主さんに素敵な夢を見させてあげたいのかな?』

『はい!!ボク。。ボク。。何にもしてあげられないんです。。ボクの大好きな人なのに。。』

そう言った男の子の瞳からは みるみる涙が溢れ出した。

『わかったゎ。。。この夢の缶詰で あなたの大切な人が 少しでも幸せになれたら 私も嬉しいゎ』

彼女はそう言うと 棚にある缶詰をぎゅうぎゅうバッグの中に詰め出した。

『あのぉ。。。ボクそんなにお金を持っていないんですけど。。。』

『大丈夫。お金のことは心配しなくていいから~♪』

『えっ?だって。。。』

『商売っていうのはね〜。。ただものを売るだけじゃないのよ。

売るものに想いが乗っかってこその商いよ♪

うちの商品は。。その時々で値段が上下することになってるのよん♪』

そう言って彼女はにっこり笑って 【夢の缶詰】でパンパンに膨らんだバッグを男の子に手渡した。

『ついでに。。マタタビ酒もおまけにつけといたわよ〜♪』

『えっ?駄目ですよーー!!ボクまだ 未成年です!!』

『あははは♪ 今すぐ飲めなんて言ってないわよ〜。

もうちょっと寝かして。。そうね。。あなたが大人になった頃がちょうどいい飲み頃になると思うゎ♪』

『ありがとうございます。本当に。。本当に ありがとうございます!!』

男の子は 何度も何度も頭を下げて。。雪が降りしきる夕暮れの田舎道を帰って行った。

彼女は 白い景色の中に消えていくその姿を見送りながら。。。

『夢使いが夢使うとき 心の鎖は解き放たれる』

ぽつんと呟いた。



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まるでミルクのような 濃くて白い霧がかかっている。

何処から来たのか 何処へ行くのか?

いったい どれくらいの時を この乳白色の霧の中で過ごしてきたのか。。

わからないままに 白い白い霧の中をあてもなく 彷徨っている。

『にゃー。。。にゃーーー。。。』

霧の中から微かに猫の鳴き声が聴こえた。

何処? 何処にいるの?

白い霧の中を 鳴き声のする方向に 一歩一歩 そろそろと進むと。。。

やがて朧げにテーブルと椅子が霧の中に見え

ふいに男の子の姿が現れた。

『こんにちは♪ お待ちしていました』

『こんにちは。。。えっと。。あなたは?』

『みゅうといいます』

『私は。。。あら?。。私の名前って何だったかしら?』

男の子はくすっと笑うと

『どうぞお掛け下さい。あなたの為に ご用意いたしました』

そう言って男の子が指し示すテーブルの上には 皿とナイフとフォーク そして

たくさんの小さな虹色の缶詰が乗っていた。

『缶詰。。ですか?』

『はい。この缶詰は【夢の缶詰】なんです。あなたの見たい夢を見させてくれる不思議な缶詰。。』

『私の夢?。。。私は何を見たいのかしら?』

『過去の夢  未来の夢 恋の夢 冒険の夢。。。夢にもいろいろありますよ』

『私。。自分がわからないんです。自分を探さなくちゃいけないみたい』

『じゃぁ。。とりあえず食べてみましょうか?

もしかしたら あなたの探しものが見つかるかもしれません』

キコキコキコ。。。

そう言って男の子は素早く缶切りで缶詰を開けると 皿の上に取り出した。

『さぁ どうぞ』

『いただきます』

ひと口 ふた口・・・

『いかがですか?』

『美味しい!!すごく美味しくて。。何だか とても。。とても懐かしい味』

そう言った彼女の瞳に 微かに光が宿った。

『気に入っていただけたようで嬉しいです。もうひとつ開けましょう』

そう言って男の子は次から次へと缶詰を開けだした。

ひとつ ふたつ みっつ・・・

彼女は それをひたすら食べる。

まるでそれまで食事をすることを忘れていたような食べっぷりだ。


『私。。名前を思い出したゎ。』

『私。。やりたいことが。。夢がたくさんあったの』

『でも いつの間にか。。毎日の生活に追われて。。

夢があったことさえも忘れてしまって

まるでロボットのように ただ命令されたことを繰り返すだけ

疲れて 疲れて。。眠れなくなって 食べれなくなって。。

他人が怖くなって

何もかも 何もかも

もう生きてることにも嫌気がさして。。それで。。。』

彼女の目から みるみる涙が溢れだした。

『頑張り過ぎちゃったんですね?』

彼女は こっくりと頷いた。

『頑張るってステキなことです。

でもね。。。

その【頑張る】は あなたの何処から出てきていたんですか?

頑張ったら。。あなたは幸せになれたんですか?

あなたの周りの人は幸せになったんですか?』

『。。。』

『あなたの頑張りは。。もしかしたらあなたの自己満足ゆえの 【頑なな心の出っ張り】だったのかもしれない。

ガチガチに凝り固まった頑固な心の出っ張りは。。。心が凍ると脆いんですよ。

ちょっとハンマーで叩くと粉々に砕け散ってしまう 氷の結晶みたいなもんです』

『頑張ることが。。自己満足?

私はただ。。。みんなに喜んでもらいたくて。。』

『あなたは優しい人だから。。嫌と言うことができないんです。

でもその優しさにつけこんで 無理難題を押し付ける奴もこの世の中にはごまんといる。

そんな奴らのために 自分の心まで殺して頑張る必要なんか無いんです。

【頑張る】の使い道はいろいろです。

あなたは もっと自分を大切にすることに頑張るべきです。

あなたは まず自分自身を幸せにしてあげなさい。

自分を幸せにできない人が 他人を幸せにできますか?

自分が幸せでいることが やがては周りを幸せにしていくんです 。

あなたの顔が いつも晴れやかで その明るさが周りを幸せにする。

それが本当の【顔晴(がんば)る】っていうことだとボクは思います』


涙は ぽたりぽたり。。と皿の上の缶詰料理の上に落ちた。

すると皿の上の料理が きらきらと虹色に輝き出した。

『ほら。。。最後のひと口をどうぞ。

ちょっと塩辛いけど。。最高のお味だと思いますよ♪』

にっこり微笑みながら 少年は言った。

彼女は 皿に残った虹色に輝く【夢の缶詰】を食べた。

すると 彼女の周りを取り巻く濃い乳白色の霧が 静かに静かに消えていき。。

やがて 霧の向こうに古びた扉が現れた。

『ボク。。。あなたにお会いできて 大変嬉しかったです。

お帰りはこちらのドアからお願いいたします』

と 男の子は古びた扉を指差した。

男の子に別れの挨拶をしようと 彼女が振り返った時には 男の子の姿は消えていた。

彼女は 重く軋むその扉を ゆっくりと開けた。



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『先生。。先生ーーーっ!!』

看護士の呼ぶ声に 慌てて病室に飛び込むと。。

ベッドの上で寝ていた眠り姫は 目を開けていた。

『おい!!至急ご家族に連絡を!!』

看護士は 慌てて病室を飛び出していった。

『気がつかれましたか?ご気分はどうですか?どこか痛むところはありませんか?』

『。。病院?。。私。。。どうしてここに?』

『幸い発見が早かったので大事に至らずに済みました。

然しながら 処置は完璧だったのに。。

なかなかお目覚めにならないので心配しました。』

眼鏡の奥の瞳が優しく彼女を見つめていた。

そして 彼女は唐突に思い出した。

あの絶望の瞬間を。

彼女の体が震え始め。。。嗚咽が その口から漏れ出した。

髪に白いものが混じる医師は 彼女の肩に優しく手を置いて言った。

『大丈夫ですよ。

安心してください。

もう。。大丈夫ですよ。

私は無神論者だが。。。きっと神様があなたに【生きろ!!】。。と言われたのでしょうね。

それくらい奇跡が重なって あなたは今 ここにいるんです。

あなたが目覚めた朝。。。今日は クリスマスなんですよ。

素晴らしいクリスマス・ギフトをありがとう』


ほどなくして 病室は報らせを聞いてやってきた彼女の家族や友人で大騒ぎになった。




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『。。よかった。。。』

彼は弱った体をベッドに横たえて 微笑んだ。

あの【夢の缶詰】を手に入れるためには 実体をここに置いて【夢の国】に旅に出なくてはならない。

実体をここに長く置き続けることは 彼にとっては命と引き換えにするほど危険なことだった。

もうすぐ 彼女は戻ってくる。

もうすぐ。。もうすぐ 彼女に会えるんだ。

彼は 微笑みながら 深い深い眠りに落ちていった。



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『みゅう!! みゅう!!』

『あなたがあんなことになってから。。眠ってばかりいて。。ずーーっと食事をしないのよ』

『えっ?どうして。。。そんな。。』

『でも。。この子のお陰で あなたは命をとりとめたのよ。

尋常じゃない猫の鳴き声がする不審な電話を受けた警察が 念のため近くをパトロール中の警察の人にチェックしてくれるように頼んだら。。。

あなたがバスルームで。。あんなことに。

この子が警察に電話したなんて考えられないけど。。

落ちるはずのない位置にある電話が床に転がっていて。。通話状態になっていたんだから。

みんな奇跡だって。。』

そうして彼女は 思い出した。

夢の中で出会った 男の子のことを。

『みゅう。。おまえ。。私の命を助けてくれた上に。。

あの霧の中から 私を連れ戻してくれたのね?』

彼女は 愛おしそうに 猫の体を撫でた。

久しく食事をしていないその体は 骨と皮ばかりになってガリガリに痩せていた。

『お願いみゅう。。。食べて!! 私はもう大丈夫だから!!』

猫は弱々しく目を開けると。。

彼女がすり潰して手のひらに乗せた 小さな魚のすり身を食べた。

そして もっとくれとばかりに彼女の掌を舐め始めた。

『にゃ〜。。』

『食べた!!みゅうが食べたーーー!!』

『なんだかこの子は 全てをわかってるみたいね?

もしかしたら言葉の通じる人間同士よりも。。。猫との方が 言葉というフィルターをはずして 本当に心と心で会話することができるのかもしれないわね。』

『そうね。。人間は言葉で嘘をつくけど。。動物は嘘をつかないわね。。。』

『あの吹雪の夜に あなたが泥だらけの生まれたばかりの子猫を拾ってきた時は。。

ママは猫を飼うなんて大反対だったけど。。

もしかしたら。。。この子は あなたの命を救うために あなたを守るために この家に来たのかもしれないって 今は思えるわ』

彼女は 猫の温もりを掌で確かめながら 小さな声で言った。 

『ねぇ。。ママ。

私。。会社を辞める。

今まで いっぱい応援してくれたのに。。。ごめんね』

『そう。

。。。あなたの好きなようにしなさい。

謝る必要なんてないのよ。

あなたの人生だもの。

たった一度きりの 人生だもの。

ママはね。。笑ってるあなたの顔が 一番好き』

彼女は にっこりと母親に微笑むと そっと猫を抱き上げて言った。

『みゅう ありがとう。

私はもう迷わないから 安心して。

でも。。もし また霧の中で迷っちゃったら

あの時みたいに 美味しい缶詰をご馳走してくれる?』

『えっ?缶詰?。。えっ?何の話?』

『うふっ♪ みゅうと私の。。。ひ・み・つ♪』

猫が彼女の腕の中で 喉を鳴らしながら鳴いた。

『うにゃ~ぁ♪』



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★ご訪問者さま★


まいどありがとうございます♪


今年も一年【夢ねこ★不思議缶】を応援してくださって感謝です。

毎月一度の更新をしてきましたが。。

そろそろ【不思議缶】の賞味期限切れも ちらほら出始め

在庫も少なくなってまいりました故

来年からは不定期に。。。

いっそう気まぐれに。。

適当に。。カタチも態度も変えて。。に

。。なるかと思われます。

猫の本質に戻るべく ゆるり ゆるり ゆぅるり・・・と参ります♪

今後とも どうぞよろしくお願いいたします♪^^


Wishing you a Merry Christmas and a Happy New year♪  夢ねこ★




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【混沌の夜明け】



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【混沌の夜明け】


彼は 群れを出て

月の光に照らされた 岩山の上に登り

眼下に広がる 白金のごとく輝く 草原を眺めた


群れの中で

争い

啀み合い

疑い

やがて 信じることに疲れ果て

群れを出た


彼は 冴え冴えと輝く月に尋ねた


教えてくれ

何故 この世は こんなにも混沌としているのだ

美しきものも  醜きものも

全て 混じり合い 混沌の渦の中だ


教えてくれ

自由の命を与えられて 生まれてきたのに

何故 多くの善を行うものが

支配され

混沌の中で 屈辱の日々を過ごさねばならぬのだ


教えてくれ

この命は いったい何のために在るのだ

どんなに愛しても 想いをつくしても

何故 心は時として 虚しさに喰われるのだ



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月は 何も答えず

ただ さわさわと 草原を風が吹き抜けた


ただ さわさわと


やがて 夜の帳が 別れを告げ

東の彼方の大地が 藍から青へ

そして うっすらと朱の色になり

地平線から 陽が昇る

草原は あっという間に 金の色に染まった



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光のように

風のように

水のように

全ては 在るがままに

カタチを 変え

その姿を 変えて

巡り めぐる


カタチ 在るもの

カタチ 無きもの

全ては 巡りめぐり そこに在る

さて

おまえの命は

いったい 何を信じて在りたいのだ?


何処からか 声にならぬ声が 聴こえたような気がした


草原を渡る風に 吹かれるままに

朝日を浴びた草原は

きらきらと

ただ きらきらと 輝いて

そこに在った



彼は 踵を返すと

その鬣を 金の朝陽にしなやかになびかせながら

群れに向かって 走り始めた



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【小舟に乗って・・・】



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【小舟に乗って・・・】


きらめく水面から 時おり水しぶきが跳んできて

陽に照らされた肌に 心地よい。

ボクを乗せた小舟は ゆらゆら揺れながら 川を下って行く。


ゆらゆら ゆらら・・・

何処へ行くのか?

ゆらゆら ゆらら・・・

何故 この小舟に乗っているのか?


揺りかごのような ゆらめきの中で 記憶もゆらゆらと おぼろげだ。

川の両岸は 色とりどりの紅葉が見事だ。

秋の陽射しは 初めは優しいようでいて。 。。 やがて 焦げつくような暑さを感じて。。

ボクは小舟を岸につけることにした。


ここは何処だろう?

川沿いに走る道路は いつか通った記憶がある。

喉が渇いた。

この道路に沿って行けば コンビニくらいあるだろう。

時計を見たら もう午後の3時になろうとしていた。

昼前に家を出てから かなり経つ。

自分でも気づかないうちに 小舟の中で居眠りでもしていたのか。。ずいぶん長いこと小舟に乗っていたようだ。

やっと道の端っこに 小さなコンビニが見えてきた。

思わずほっとしながら。。。欲しい時に欲しい物が手に入るConvenience (便利な)Store(店)とはよく言ったものだと思った。


『いらっしゃいませ~。』

元気な店員の声に迎えられ 店に足を踏み入れて ドリンク用の冷蔵庫があるコーナーに向かった。

その前に立って ボクは思わず絶句した。

『何だこれーーー!?』

どれもこれも いつも購入してるおなじみの商品。

でも。。でも。。。商品名が読めない!?

って言うか。。。文字が日本語じゃない!!。。英語でもない???

頭が一瞬パニックになって そして気がついた。

文字が逆だ。。反転している。

何かのイベントのウケ狙いなのか?。。と思って 周りの商品を見回した。

全て 全て!!。。。店のレジの横に貼ってある広告や雑誌コーナーの雑誌に至るまで反転文字。。逆さまだ。

夢でも見ているのか?

ボクは頭が混乱したまま とりあえずジュースのボトルをつかんでレジに向かった。

『ありがとうございます。 185円になります』

1000円札を出した。

すると 店員の顔が 微妙に変化した。

『お客様。。これはお使いになれませんが。。。』

『えっ? どうして?』

『これはオモチャのお札ですか? それとも。。』

店員の瞳が疑うような光を帯びて ボクを見据えた。

『えっ?あっ。。ごめんなさい。 間違えました。 これいりませんから!!』

ボクはジュースをレジに置いたまま 店を飛び出した。

いったい何がどうなっているのか。。頭の中は混乱したまま そのまま走って走って 。。息がきれるまで走り続けた。


喉がからからに乾いて 焼けつくようだ。

ようやく見つけた公園の水飲み場で 喉を潤しながら ボクは周りを見回した。

子供達が賑やかに遊ぶ。。。これといって何の異常も感じられない普通の公園の風景。

でも。。

◆◆公園と書かれた文字は逆さ文字だ。

ここは何処だ?

いったい ボクは何故こんな世界にいるんだ?

公園のベンチに腰を下ろして 頭の中を整理しようとした。

家族は?

ボクの家族は この世界に存在しているんだろうか?

急に恐怖がやってきて。。

携帯を取り出して 震える指で家に電話した。

通じない。

呼び出し音さえ聞こえないってことは。。この携帯は使えないってことか?

公衆電話を探して あちこち歩き回り ようやく探し当てた公衆電話。

公衆電話のナンバーも。。。もちろん逆文字だ。

恐る恐る【この世界では使えないコイン】を投入して家の番号を押す。

ルルルルーーー・・・

ルルルルルーーーー・・・

繋がった!!

心臓がバクバクと音を立てて 喉から飛び出しそうだ。

『はい。 ●●でございます。』

『かーさん!!かーさん!!俺 。。俺。。』

『何 ?どうかしたの? 今日はサークル仲間と飲みにいくから夕飯は要らないって  さっき電話してきたばかりじゃない』

『。。。!?』

『もしもし? どうしたの?』

『いや。。何でもない。 夕飯要らないって確認だけ』

『あまり遅くならないようにね〜。 この頃は 男だからって安心できるご時世じゃないんだから〜。』

『うん。。わかった。』

そう言ってボクは受話器を置いた。

。。。ボクの帰れる家はこの世界には 無い。

ボクはショックに打ちのめされて 道端の縁石に座り込んだ。

もし。。この世界に住むもう一人のボクとこのボクが出逢ったらどうなるんだろう?

同次元に存在を許されるはずのない存在なのだから。。。

考えるのも怖くて ボクは頭を抱えてうずくまった。



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『もしもし どうかしたのかね? 気分でも悪いのかね?』

声をかけられて ふと顔を上げると 陽に焼けた赤ら顔の老人が自転車を傍に目の前に立っていた。

『いえ。。何というか。。もう何が何だか訳がわからなくて』

『ほぉ。。訳がわからぬと?私でお役に立つことがあれば ご相談にのるが』

ここはボクの住んでいた世界じゃないって言っても  この人は信じてくれるだろうか?

頭のおかしい男だと思って警察に通報するんじゃないか?

『いえ。。大丈夫です』

そう言ってボクは立ち上がって とりあえず歩き出した。

不審者だと思われないように。。できるだけ普通に。。普通に。

この頃は変な事件が多いせいか ちょっと挙動不審な奴を見かけると すぐ警察に通報だもんな。

でも。。いったいボクは何処に行けばいいんだ?

どうやったら元の世界に戻れるんだ。

とりあえず さっきの川沿いの道を遡ることにした。

ボートに乗った場所に戻れば 何か戻る方法を思いつくかもしれない。

てくてく歩き出してしばらくすると 先程のコンビニの前に出た。

思わず店の中を覗くと 警官が二人レジのところにいて あの店員と話をしている。

心臓がバクバク音を立て出した。

ボクが偽札を使おうとしたと通報したに違いない。

逃げるようにそのコンビニを通り越して 早足で歩き始めたボクに 遠くから 『おい。。そこの君ーーー!!待ちなさい!!』 と声が聞こえた。

追いかけてくる気配。

聞こえないふりをして 次の角を曲がり ボクは猛然とダッシュした。

走って 走って 。。

角をいくつも曲がったところで ボクの目の前に誰かが立ち塞がった。

もう駄目だ。

目の前が真っ暗になって 観念した時に。。

『早く後ろに乗りなさい!!』

聞き覚えのある声に 思わずその顔を見ると さっきボクに声をかけてくれた老人が自転車に乗ってそこにいた。

ものも言わずに ボクは自転車に飛び乗った。

老人が思い切りペダルを踏むと もの凄い勢いで自転車は走り出した。

ボクは振り落とされないように 老人の背中にしがみついた。

老人とは思えないほどの自転車のスピードに驚きながら この世界での唯一の知り合いに出逢えたような安堵感に ボクの胸は震えた。


『もう大丈夫じゃろ』

川沿いの道から遥か外れたスーパーの駐車場に自転車を停めて。。『ここで待っていなさい』と 店の中に消えた老人は パンと飲み物を手にして戻ってきた。

手渡されて お礼を言うのももどかしく ボクはパンにかぶりついた。

もの凄くお腹が減っていることに その時初めて気がついたんだ。

ガツガツとパンを食べるボクを にこにこしながら見ていた老人は。。

『よかったら話してみないかね?』。。と。

それで ボクは言葉を選びながら ぽつりぽつりとこの奇妙な体験を話し始めた。

精神異常者だと思われないように 落ち着いて 落ち着いて。

『。。。ふむ』

『ボクの話を信じていただけますか?』

『ふむ』

『お願いです。 信じてください!!嘘じゃないんです!!』

『戻ろう。 時間が無い』

『えっ?』

『君がボートに乗った場所に 戻るんだ』

そう言って老人はボクに自転車に乗るように促すと 川沿いのあの道に向かってまたもの凄いスピードで自転車を走らせた。

夕焼けに染まる雲の色が 夜を迎えるために 刻一刻と変わり始めている。


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小一時間も走っただろうか?

何となく見覚えのある景色が見えてきた。

『すみません。 止めてください!!』

『ここっ!!。。たぶんここ!!』

そこには何艘もの小舟が舫ってあった。

『ここで本当に間違いないか?』

『はい。ここで水辺の景色を眺めているうちに 思わずボートに乗り込んでしまったんです』

『でも。。それから先の記憶が曖昧で。。。いつボートの舫いを解いたのかさえ覚えていないんです』

『ボートに乗りなさい』

『えっ? また乗るんですか? そしたら。。また同じことの繰り。。返し。。』

『うるさい!!時間が無いんだ!!早く乗れーーっ!!』

それまで温厚だった老人が急に怒鳴ったので びっくしたボクは 慌てて小舟に乗り込んだ。

『いいか? 水面を見てごらん。 何が見える?』

『。。えっ? 水面???。。水だけだけど。。』

『こらっ!!ちゃんと見ろ!!水面に映っとるじゃろ!!』

『あっ!?そうか!!えーーっと。。橋。。紅葉した木々。。』

『その水面に映る世界が。。君の住む世界だよ』

『えぇぇー?』

『こちらの世界は。。そう。。君の住む世界とは真逆の鏡のような世界。』

『鏡の世界?。。。どうしてボクはこちらの世界に来てしまったんですか?』

『それは私にもよくわからないが。。君はこの水面の景色を見て何を思っていた?』

『。。。何を?』

『思い出してごらん。それが答えかもしれん。そしてそれが元の世界に戻るヒントじゃろうな』

ボクは 必死で思い出そうとした。

今日も大学をサボって ぶらぶらしてた。

せっかく入った大学なのに。。いまひとつ馴染めない。

電話に出たこっちの世界の母さんが もう一人のボクは今夜はサークルの飲み会云々って言ってたけど。。

ボクの住む世界のボクは 人付き合いも面倒くさくて サークルに出たことなんてほんの数えるほどだ。

鏡の異世界のもう一人のボクは どうやら性格も真逆にできているらしい。

実際のボクは どうしようもなく自堕落で面倒くさがりやだ。

何のために日々を生きているのかさえ 疑問に思えてくるほどに。

だから。。

だから。。そうだ!!

この水面に映る まるきり同じだけど 真逆の世界に心惹かれたんだ。

『思い出したかね?』

『たぶん。たぶん。。。ボクは ボクの住んでいる世界から たとえ一瞬でもいいから逃げ出したかったんだと思います。

この水面に映る景色が 風に吹かれては ゆらゆら揺れては消えて また現れて

。。。あまりにも美しくて儚げで。。。

岸辺から眺めていると その世界に引き込まれるような錯覚を覚えました。

ボートに乗り込んだら もっとその世界に近づけるような気がしたんだと思います。

それで。。。それからのことは良く覚えていません』

『もう陽が沈む。 陽が沈んだら。。。映し出された水面の君の住む世界も消える。 そうしたらもう戻れない』

『えっ!?本当ですか? でも明日の朝になれば また同じ景色が。。』

『駄目なんだ!!今日という日は 今日一日限り。。二度と戻らない。 明日になれば この景色もまた同じものではない』

ボクはびっくりして 水面を眺めた。


帰りたいのか? 元の世界に?。。ボクは自問自答した。

ろくに学校にも行かず 勉強はそっちのけで ゲームや漫画本にうつつをぬかす自堕落な毎日。

そんな自分が嫌で嫌で仕方ないのに。。自分を自分で変えることさえできない。

家族のために毎日頑張ってる 父さんや母さんに申し訳なくて。。

この頃じゃ 何のために生きているのかさえわからなくなっているのに?


帰りたいのか?ボクの世界へ?

。。。もちろんだ!!

それでも こんなボクにも 笑顔で迎えてくれる家族がいるし友人もいる。

少なくとも どんなに小さくても安らげる居場所が在る。

でも。。この世界には ボクの居場所なんか無いんだ!!


ボクの思いを見透かすように 老人が微笑んだ。

『君の世界にお帰り。 ここで生きていくということは。。今までの君の全てを否定し捨てることなんだ。

それは とてもとても 辛く淋しいことなんだ』

ボクは はっとして老人の瞳を覗きこんだ。

夕陽に照らされた老人の瞳は 心なしか濡れているように見えた。

『ところで 君にお願いがあるんだ。 元の世界に戻ったら。。この住所を尋ねてみてくれないか?』

そう言って老人は ギクシャクした文字で書かれた住所の紙切れをボクに手渡した。

『読み難くて悪いな。 もう長いこと君の世界の文字を書いてないんでね。 

そこにもし女の子。。いや。。たぶん30歳くらいの女の人が住んでいたら こっそり写真を撮ってきてくれないかね。

写真は このボート置き場のベンチの下に貼り付けておいてくれればいい。

真逆の世界だが。。。時空を超えて同じ物が存在する世界だ。たぶんそれぐらいは可能だろう。

ま。。実験みたいなもんだな』

ボクは目を丸くして老人を見つめた。

『まさか。。。あなたも!?』

『あの頃の私は。。。眠る時間もろくにないほど仕事に追われ 疲れ果て 心も体も限界だった。

イライラして毎日のように家族に当り散らし。。夫婦喧嘩ばかりで 挙句に妻は浮気。。。離婚寸前だった。

逃げ出したかったんだよ。。あんな世界から』

ボクは返す言葉もなく 老人の口元を見つめ 続く言葉を待った。

『この世界に来て 解放されたと思った。

だが この世界にもう一人の私が存在するのなら。。絶対近寄ってはいけないと思い住む場所も遠くに移った。

娘には会いたかったが 会うことで抱えるリスクの方が高いと思って諦めた。

何もかも失って。。。独りになった。

自由になったと 最初は思っていた。

だがね。。。私も もう歳だ。

この頃頻繁にね。。夢に 見るんだよ。

私の元住んでいた世界の夢を。

家族の夢を。。。幼い娘の笑顔を』


『だから君は 帰りなさい。

君を大切に思ってくれている人の居る世界へ。

その世界こそが 君の唯一の宝物なんだ』


ボクは 言葉も無く老人を見つめ続けた。

そうして思わず手を差し伸べた。

『一緒に帰りましょう!!もしかしたら ボクと一緒なら帰れるかもしれません』

老人は一瞬 複雑な表情を浮かべたが。。。

黙ってボートに乗り込むと ボクの目の前に座った。

夕陽に染められた空に 夕闇が迫ってきていた。

『時間が無いぞ。 強く想え。 水面に君の想いを投影させろ!!』
 
『はい!!』

ボク達は 少しずつおぼろげになっていく水面の景色を黙って見つめた。

帰りたい!!

帰りたい!!

この風景の在る 僕の世界に。。。

母さんや父さん。。妹。

かけがえの無い 大切な人たち。

帰りたい!!

帰りたい!!


胸が熱くなり

水面を必死で眺めているうちに 視界がぼやけてきた。

涙でぼやけているのか夕暮れのせいなのか わからない。

涙を袖でぬぐって ふと前を見たら。。。

老人の姿が消えていた。

『えっ?えっ?!』

周りを見回しても 老人の影も形も無い。

『まさか?まさか?』

ボクはボートから飛び出すと 道路に出て走り出した。

見慣れた風景。

いつものコンビニが目の前に現れた。

店の自動ドアが開くのももどかしく。。店に入って周りを見回して。。。

『やったーーーっ!!』

大声を上げたボクに 店内にいた店員や客がびっくりしてボクを見る。

そんな事はお構いなしに そのまま店を飛び出して 猛ダッシュで我が家に向かう。


『ただいまーーー!!』

『お帰り~。今日は遅かったわね~。』

夕飯を作ってる いつものエプロン姿の母さんが振り向いた。

その途端。

まるで堰が切れたように 急激な感情が襲ってきて。。。

ボクは。。『かーさん!!』と言ったまま 母さんの背中にしがみついて泣き出した。

『かーさん!!かーさん!!。。。うわあぁーーーん。。。』

『ちょ。。ちょっと 何よ!!どうしたの!?』

『うわぁーーーーん。。。うわあぁーーーん。。。』

騒ぎを聞きつけた妹が 『お兄ちゃんどしたの?』と 猫のペろ吉を抱いてやってきた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を妹に向けて。。。

抱きつこうとしたら 『やだーー!!きもーーーっ!!』と言って逃げられた。



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あれから 一週間が過ぎた。

ボクは老人に渡された住所を頼りに■県のある街を訪れた。

首都圏に近いせいか 近年ベッドタウン化したその街は まるで正確に作られたジオラマみたいだ。

紙切れに記された住所の家は街のはずれにあり 老人が書いたものと同じ苗字の表札がかかっていた。

『盗撮するのは気がひけるし。。まさか 鏡の世界で暮らすお父さんがあなたの写真を欲しがっています。。なんて言えないよな~~。』

探し当てたことにほっとしつつも。。なんと話をしたらいいのか散々悩んだボクは。。。

ボクの大学の名前と適当なサークルの名前を使うことにした。

彼女が買い物に出かけるのを待って ボクはスーパーの中で声をかけた。

『すみませーん。 ボク。。●●大学の▲▲サークルに加入しているものなんですが。。』と学生証を見せる。

『今回 所属しているサークルの日本全国の家族の食事に関する統計調査で 日本各地でいろんな年齢層の皆さんにインタビューしてるんです。

ちょっとしたご質問と今夜の夕食の材料を持っていらっしゃるところをお写真に撮らせていただけませんか?』

彼女は最初びっくりしたみたいだったが。。。

『学生さん?遠くからこんなところまで大変ね~。』と言いながら快く写真を撮らせてくれた。

『今夜は何人分のお食事を作るんですか?』

『三人分。。。と言っても。。私と私の母の分と帰宅の遅い夫用に簡単な夜食かしら。』

『ご主人のお夜食まで用意されるなんて。。大変ですね~。』

『男の人は仕事で心身すり減らしている上に お付き合いでお酒も飲むし。。。 少しでも体に良いものをと考えているんですよ』

『やはり野菜中心ですか?この地方独特の体に優しい郷土料理がありましたら教えていただけませんか?』

そう言いながら。。ボクはメモを取りながらうろ覚えの栄養学の知識を総動員して食事に関する会話を続けた。

『ご家族の健康のことを本当によく考えられて勉強されていらっしゃいますね。 まさに主婦の鑑みたいな方ですね!!尊敬します。 もしかしたらお母さんもきっと お父さんにそのようにされていらしたのでしょうね。』

『父のことはよく覚えていません。 父は。。。ずっと昔に亡くなりましたから。』

そう言い放った彼女の表情には 触れてはならない頑なな想いが込められているようだった。

『失礼しました。 ご協力ありがとうございました。』

そう言って頭を下げ その場を逃げるように去りながら。。ボクはなんとも形容しがたい想いに胸が塞がれるような気がした。

違うんです!!

お父さんは。。。

あなたのお父さんは 生きているんです!!

鏡の世界で 独り。

会いたくて

あなたに 会いたくて

本当は。。お父さんも あなたに会いたくてたまらないんです。


・・・『だから君は 帰りなさい。

  君を大切に思ってくれている人の居る世界へ。

  その世界こそが 君の唯一の宝物なんだ』・・・


老人の言葉が不意に蘇り

声に出して叫びたい気持ちを抑えて 振り返ると。。

買い物客の流れに取り残されたように ぽつんと。。

ぽつんと立ちつくしたまま 彼女がこちらをまだ見ていた。

ボクは 手を振った。

彼女も。。。つられるように手を振った。


それからまた数週間してあの場所を訪れた。

ボート小屋のベンチの下に貼り付けた写真は。。いつの間にか消えていた。

その代わりに『ありがとう』とギクシャクした文字で書かれた紙が貼り付いていた。



あの老人の想いは 鏡の世界に閉じ込められたまま もうこの世界には戻らない。



ゆらゆら ゆらら・・・

今日も 水面に映る世界は

ゆらゆら ゆらら・・・

妖しく 儚げに 揺れて。。。

あなたが 異世界の扉を開けるのを

手招きしながら待っている。


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【The sunset in the parallel world】




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【The sunset in the parallel world】


目が 覚めた。

身体が重い。

どうやら昨夜 飲み過ぎたようだ。

枕元の携帯を手にする。

まだ5:30だ。

もうひと眠りしようか。。と思いながら今日の天気予報を見ようとした。

接続不能。

『変だなぁ?。。』

トイレに立ったついでに テレビをつけた。

接続不能。

砂嵐みたいな画面だけが どのチャンネルを回しても現れる。

『マジか?

どうなってるんだ?

また どでかい太陽風のストライクでもあったのかな?』

CDプレイヤーのラジオも 雑音のみ。

なんだか急に 不安がやってきた。

電気は普通に供給されてるから停電じゃないのに。。いったい何があったんだ?

簡単に朝食を済ませて 電車の駅に向かった。

『何だかいつもより道路が混雑してるな。』

駅前には 人が溢れている。

【お客様にご案内申し上げます。コンピューターの不具合により ただいま電車の運行に支障をきたしております。
大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが 代替のバスをご利用くださいますようお願い申し上げます】


『。。。嘘だろ?いったい何があったんだ!!』

行き先を表示された臨時のバス停を求めて 人が右往左往してる。

心の中で舌打ちしながら ようやく探し当てたバス停は長蛇の列だ。

やれやれと待つこと一時間余り。

すし詰めのバスに揺られて 会社に着く頃には 既にどっと疲れを覚えていた。


会社の正面玄関に 人だかりができている。

『まさか?。』と 不安に急き立てられるように人垣をかき分けて覗き込んで 絶句した。

正面玄関に貼られた貼り紙には。。

【コンピューター及び電話等の不具合により通常業務に重大な支障をきたしています。セキュリティー上の問題もありますので 回復するまで 社員の皆様には自宅待機をお願いいたします】

『おい!!マジかよーーーっ!!』

同僚の顔が見えたので尋ねてみた。

やっぱり彼のところも 今朝から一切の情報伝達機能がシャットダウンされているという。

俺と同じに やっとの思いで辿り着いた奴等が会社の玄関の張り紙を見て 力無く地面に座り込む姿もあちこちで見受けられた。

またあのぎゅうぎゅう詰めのバスに乗るのかと思ったら。。嫌気がさして。。

俺は 自宅に向かってとりあえず歩くことにした。

街は 何だか静かに騒然としている。

いつもニュースを流し続ける ビルの壁面にある巨大スクリーンも沈黙し

今ではどこにでも見られる風景のひとつとなっている 携帯を手にする人々の姿も見られない。

みんなが まるで迷子になったような。。不安そうな瞳の色をしている。

もしこれで電気も使えなくなったらヤバイなと。。

とりあえず食糧を確保しておこうとコンビニに足を踏み入れて 思わず目が点になった。

いつもはぎっしりと食料品で埋め尽くされた棚が  既に殆ど空っぽ状態だ。

店員をつかまえて尋ねたら。。

『何しろ。。電話もメールもFAXも使えない状態ですので。。。
仕入れの連絡を取りたくても取れないんです。 こんどいつ商品が入荷するのか全然わからないんですよ~。』

。。と途方にくれた答えが返ってきた。

ヤバいじゃないか。

俺の部屋の冷蔵庫には 卵とバターとカットサラダ。。それにビールとつまみぐらいしか入ってないぞ。

急に不安が背中を押して

俺は 帰宅途中にあるコンビニを片っ端からチェックして回った。

どこも似たり寄ったりだ。

それでも辛うじて カップ麺やらシリアルなんかを手に入れることができて。。 

俺はそれを抱えて 数時間歩いて よれよれ状態でアパートに帰り着いた。

いったい世の中はどうしちゃったんだ?

まだ電気は通じてるし水も出るから 一応安心な面もあるが。。情報が一切入ってこないっていうのは まるで通信手段の無い絶海の孤島に身を置いているようだ。

これで。。もし水も食糧も手に入らなくなったら?

よしスーパーに買い出しに行こう!!

体はめちゃくちゃ疲れていたが それ以上に。。。もしもこんな状態が何日も続いたら餓死するかも?。。という恐怖に突き動かされて 俺はすぐ行動に移した。

普段はコンビニで その日に食べるものを少しばかり購入する程度だった俺は
まるでいつか写真で見た 終戦直後の買い出しよろしく 学生時代に使っていた大きなリュックサックを引っ張り出して背負うと 
近所のスーパーに向かった。

スーパーは。。ものすごい人で溢れていた。

食料品の棚に店員が商品を補充するそばから 人の手が伸び みるみる空になっていく。

俺も考える余裕など無く 手当たり次第に何でも買い物カゴに突っ込んだ。

長蛇のレジをクリアして重いリュックを背負ってアパートに辿り着いた頃には もう夕方だった。

今日一日中 大きな不安に突き動かされていた。

いったいいつまでこんな状態が続くんだ?

カップ麺をすすりながら。。。暮れゆく夕焼け空を眺めて

『俺たちが当たり前だって思ってる世界の終わりって。。もしかしたらこんな風に突然やってくるのかもな。。。』

ふと呟いた自分の言葉を 納得してるもう一人の自分がいることに 

俺は なんだか不思議な思いがした。



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全て白で統一された その部屋には

これまた 全身白ずくめの二人の男がいた。

《実験はいかがですか?》

若い方の男が尋ねた。

《情報伝達システムに不具合を与えただけで この混乱ぶりは。。どうだ?

いかにこの時代の人間たちが 情報に依存して生きているかがわかって面白い。。

いや。。面白いと言うより。。何だか憐れだね。

昔の人間は 少ない情報の中で必死に考え行動した。

生き抜くための情報は 与えられるものであり また与えるものであった。

自分を取り巻く森羅万象の全てから 情報を得る術を知っていた。

そしてそれを未来に繋げる努力をしていた。

それが 今はどうだ?

何処かの誰かが発した情報を 確かめもせず鵜呑みにして

コントロールされることを良しとする。

世の中は 利便性を突き詰めれば詰めるほど

人は 自分で思考することを蔑ろにしていく。

いざという時の安全弁さえも 大丈夫だろうという妄想の中で取っ払ってしまい

危機が訪れて 右往左往するという具合だ。

経験から学ぶことを忘れ 行き当たりばったりのツギハギでその場をやり過ごしても 後で必ず自分で蒔いた種は刈り取らなければならぬ。

人が人として生きていくために本当に必要なものを思い出すには この実験は良いきっかけになるだろう》

初老の男が画面を見ながら応えた。

《ふーむ。。。

確かに。

ところで これはいつ解除なさいますか?

あまり長期間のシステム障害は やがて時空のパラレル上に歪を生み出す可能性があります。。》

若い男の問いに 初老の男は一瞬躊躇したかのように見えたが。。

《。。もう暫く放っておけ》

そう一言告げると

靴音を高く響かせて その白い部屋を出て行った。



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あれから一ヶ月が過ぎた。

俺の携帯は 部屋の片隅で埃をかぶり テレビはただの四角い箱になった。

ところが不思議なことにラジオだけは しばらくして回復した。

飛行機と電車は運休中。

各国の政府は この通信システム障害の原因を突き止めようと躍起になったが。。

直そうとすればするほど 原因不明のエラーが出てしまい まるきりのお手上げ状態だ。

まるでコンピューターや通信システムが 人間にコントロールされることを拒否しているみたいだと誰かが言っていた。

世界各地で 食料をめぐって一時的に暴動が起こったが それもすぐに沈静化した。

犯罪が増えるかと心配されたが  不思議なことに 落ち着きを取り戻すと 犯罪件数は逆に減り

人と人とが密に連絡を取りあうことで 連帯感や協調性が生まれた。

それまで衰退の陰りを見せていた郵便事業が また再び盛んになった。

バイク便や自転車便などの 配達連絡業者が急激に増えた。

パニックから一転して 世界はゆっくりと緩慢に動き出した。

俺の会社も仕事量が極端に減った。

(もちろん。。給料も減った。)

何しろ取引先の返事を待つのに時間がかかって 次の段階になかなか進めないのだから仕方ない。

今まで忙しさで頭から四六時中湯気を出していた上司が 鼻歌を歌いながらゆっくり書類に目を通している。

俺も クライアントからの希望を時間をかけて吟味できる。

仕事ってこうやって余裕を持ってやった方が 良い仕事ができる気がする。


今までメールや電話で処理していた案件が  実際に担当者と会って話すことで  より確かな手ごたえを感じるようになった。

一時期は大量の失業者が世界中に溢れ 世界経済が破綻したかに思えたが。。

世界中で 新たな静かな動きが 特に若者達を中心に広がっていった。

政府のサポートのもとに 都会を離れ田舎に移住する。 

自給自足の生活。

新たな共同体の誕生。

周りから与えられる一方通行の情報や経験ではなく 自分達で実際に体験したものを相互に分析 発信受信していくというスタイル。

大量生産大量消費という今までのスタイルではなく

人々が本当に必要とするものを ひとつひとつ丁寧に作っていく。

それは生産者と消費者の 互いの顔が見える物作りだ。


。。。この頃 何となく思う。

俺たちは大きなものを無くしたけれど 大切なものを思い出したんじゃないかって。

利便性ばかりを追求して。。【世界は大きく広がった】。。と誰もが思いこんでいたけれど。。 

それは ただの陽炎みたいな幻影を見せられていたんじゃないかって。

人は人と実際に触れ合うことで

あるいは自然とちゃんと向き合うことで その五感を駆使して 経験を積んでいく。

その経験を未来に生きる人にきちんと伝えていくことが 未来に繋がる宝物と言えるんじゃないか。


そんなことを つらつらと考えながら。。。

帰宅途中にある 街を見下ろせる丘の上で 俺はいつものように自転車を止めた。

今日も夕焼けが めちゃくちゃ綺麗だ。

今まで夕焼けの色が毎日違うなんて 全然気づかなかった。

空を見上げる事なんか忘れていた。

帰宅するのは いつもすっかり日が暮れてからだったもんな。

。。。自然の美しさに感動してる時間なんて。。無かったなぁ。。


明日もまた良い天気になりそうだな。

俺は。。 『今日も 素敵な一日をありがとう』。。と心で呟きながら 夕陽に手を合わせた。



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トルルル

トルルルーーー

トルルルーーー


『ん?。。あれ?

もしもし。

はっ。。はい。。はいっ!!

申し訳ありません。

直ぐに伺います。』


疲れを覚えて ちょっとオフィスのソファーで横になるはずが すっかり眠りこけていた彼は

上着と書類を脇に抱えて表に飛び出した。

『いけね!!遅刻だーーー!!』

階段を脱兎のごとく駆け下りて 会社の外に出ると

通りでタクシーを拾って乗り込んだ。

携帯でこの後のアポイントに遅れることを先方に知らせて。。ふーっとため息をついて車のシートに身を沈めた。

『お客さん お仕事お忙しそうですね~。』

タクシーの運転手が話しかけてくる。

『すみません。ちょっと押していて。。

できるだけ急いでくれませんか?』

車の中で書類に目を通しながら。。

彼は ふと顔を上げて ビルの谷間に沈みゆく夕陽に目をやった。

『夕陽か。。。今日も終わりだな』

不確かでおぼろげな記憶の欠片が 一瞬脳裏をかすめ

彼の胸にやわらかな光を ふぅわり。。と落としたが

それが何なのか思い出せぬまま。。。

彼を乗せた車は 夕暮れの都会の喧騒の中に消えていった。



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【Summer・・・・往く夏よ】




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【Summer・・・・往く夏よ】 



熱い あつい 吐息を

わたしに 吹きかけて

その情熱の 

おもむくままに

わたしを 焼きつくした

夏が


・・・往く




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空の高みが 

遥かに

透明になり

風が 

秋の訪れを 

告げたとしても


わたしの 肌に

くっきりと

 
あの日の 約束のように

くっきりと 無邪気に

焼きついた


夏(あなた)の 刻印が



・・・消えない






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